メンタル・ヘルス研究所社会経済生産性本部

健康日本21 各論3.休養・こころの健康づくり

4.対策

(1)こころの健康を保つための対策

ア ストレス対策
ストレス対策としては、(1) ストレスに対する個人の対処能力を高めること、(2) 個人を取り巻く周囲のサポートを充実させること、(3) ストレスの少ない社会をつくることが必要である。
個人がストレスに対処する能力を高めるための具体的な方法としては、(1) ストレスの正しい知識を得る、(2) 健康的な睡眠、運動、食習慣によって心身の健康を維持する、(3) 自分自身のストレスの状態を正確に理解する、(4) リラックスできるようになる、(5) ものごとを現実的で柔軟に捉える、(6) 自分の感情や考えを上手に表現する、(7) 時間を有効に使ってゆとりをもつ、(8) 趣味や旅行などの気分転換をはかる、などが挙げられる。
個人が受けるストレスの影響は、配偶者や家族、友人、知人、職場や地域社会などのサポートによって緩和される。このためには、個人の側から、周囲の理解と協力を得ることができるようになることも重要であるが、求めに応じて個人を支えるような社会的環境を整えることも重要である。
また、ストレスの大きさを個人の対応能力を越えないようにすることができれば、過度の影響が回避できる。このためには、社会経済的環境、職場環境、都市環境、住環境などをよりストレスの少ないものへと変えていくことが必要であり、ストレスの少ない社会をめざす社会全体の取り組みが必要である。
一方、ストレスの解消や発散のために喫煙や過度の飲酒、過食などに走るなど、一般にストレスが不健康な習慣の言い訳にされることがある。そのため、これらの生活習慣の改善に併せて、ストレスに対する個人の能力を高めることを、自己管理目標のひとつと位置づけて取り組むことが重要であろう。

イ 睡眠対策
睡眠障害の危険因子としては、ストレス、ストレス対処能力のなさ、運動不足、睡眠についての知識不足などが挙げられる。
睡眠対策としては、睡眠について適切な知識の普及、かかりつけ医が適切な対応をとれるようにすること、さらに、かかりつけ医と専門医との連携を充実させることが必要となる。
最近発表された研究では、「眠いときだけ床に入る」、「十分に眠れなくても毎朝同じ時間に起きる」といった行動についての指導を受けた人について、睡眠薬を投与した場合に負けないだけの治療成績が示されており3)、このような日常生活における配慮だけでも、大きく睡眠障害の改善が見込める。不眠は、一般診療において訴えられる場合が多いため、一般診療における適切な対応が必要である。

(2)こころの病気への対策

自殺予防活動には、(1) 自殺が生ずる前に対策を講じ、予防につなげること(予防)、(2) 生じつつある自殺の危険に対して介入し、予防すること(介入)、(3) 不幸にして自殺が生じてしまった場合に遺された人々に対する影響を少なくすること(自殺後の対応)が挙げられる。
予防としては、職場や学校や地域を通じ、一般の人々に自殺の危険因子、直前のサイン、適切な対応法などについての知識の普及を図ることが挙げられ、特にうつ病の症状と、有効な治療法があることの理解を広める必要がある。また、かかりつけ医、保健婦、教師などは、自殺の危険を早期に発見できる立場にあることから、予防のための知識を持ち、さらに精神科医などの専門医との連携を図る必要がある。
介入は、自殺の危険の高い人を早期に捉えて、迅速に適切な治療を受けられる環境を整える必要があり、まず精神科医療が充実することが前提となる。地域の保健医療関係者が協力して、自殺を減らすための取り組みを行い、自殺者が減少した事例もある(参考)。
自殺が同じ場所で行われる傾向が見られたり、ある自殺に影響を受けて自殺が行われることが観察されており、特に自殺者の周囲の者に危険性が高まることが指摘されている。このような連鎖的な自殺を防ぐために、地域で自殺が生じた時には、周囲の人に対する支援や、適切な報道が行われるようにするなどの対策を講じる必要がある。
また、海外では、専門家が自殺のきっかけや自殺者の受けた治療などを調べて、自殺の背景を明らかにし、この結果を自殺予防に役立てる取り組みが行われており、わが国においても、有効な自殺対策を立てるために、死亡統計や警察庁の実施する調査では十分に捉えられない自殺の背景を明らかにする必要がある。

5.その他

現状においては、国民全体を捉える視点からの、休養・こころの健康に関する現状の把握や背景の解明が必ずしも十分とはいえず、今後の対策を進めるに当たっては、これらを対象とした調査・研究を充実させることが必要である。

参考文献等
1) 財団法人健康・体力づくり事業財団、平成8年健康づくりに関する意識調査、1996
2) 厚生省、人口動態統計
3) Morin CM, et al. Behavioral and pharmacological therapies for late-life insomnia.
JAMA, 1999;281:991-999