メンタル・ヘルス研究所社会経済生産性本部

過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会報告書(抜粋)

4 取り組むべき対策の方向

(1)過重労働による健康障害防止対策の在り方
ア 健康診断の実施とその結果に基づく適切な事後措置
○ 労働者の健康管理については、現行労働安全衛生法において、脳・心臓疾患に関連する項目も含む健康診断の実施とその結果についての医師からの意見聴取、健康診断実施後の措置、保健指導等を確実に実施することが事業者の責務とされている。これらの事項は、労働者の健康状況に応じた措置として健康管理の基本となるものであり、この徹底が先ず重要である。また、これらの措置の適切な実施の促進を図るために、今後、健康診断結果の的確な判断基準、健康診断の事後措置に係る情報提供等を進めることが必要である。なお、二次健康診断等給付の活用も図る必要がある。

イ 疲労の蓄積によるリスクが高まった場合の面接指導等
○ 労働者に長時間の時間外労働など過重な労働をさせたことにより疲労が蓄積している場合には、脳・心臓疾患発症のリスクが高まるとされていることから、このような状況となった労働者の迅速な把握が不可欠であり、また、その健康の状態を把握し、適切な措置を講じるようにするため、医師が直接労働者に面接すること及び健康確保上の指導を行うことを制度化すべきである。

○ さらに、事業者は、医師による面接指導の結果に基づき、必要に応じて健康診断、労働時間の制限や休養・療養等の適切な措置を実施するようにすべきである。

○ この医師による面接指導が必要な場合としては脳・心臓疾患発症との関連性が強いとされる月100時間を超える時間外労働又は2ないし6か月間に月平均80時間を超える時間外労働をやむなく行った場合が考えられる。具体的には、事務処理などの実効性を考慮すると時間外労働時間の算定は月単位での処理が適当であると考えられる。

○ また、これより時間外労働時間が短い場合であっても、予防的な意味を含め健康上問題が認められる場合には面接指導を行うことが必要と考えられ、例えば、労働者が脳・心臓疾患に係る基礎疾患を有する等一定程度以上のリスクを有しているとき、労働者自身が健康に不安を感じたときや周囲の者が労働者の健康の異常を疑ったとき等であって産業医等が必要と認めた場合等には医師による面接指導を実施することが必要と考えられる。さらに、これらの対象者が事業場内の産業医等による面接を希望しない場合、自ら外部の医師の面接指導を受け、その結果を事業者に提出することができるようにすることも必要と考えられる。これらの場合に関しては、専属産業医の有無等事業場の実施体制、労働者の意見等も考慮する必要があることから、一律に基準を定めるのではなく、各事業場において、衛生委員会等の意見を聴き、自主的な基準により制度化していくことが適当である。

○ なお、上記の面接指導は、月100時間を超える時間外労働を行った者等については必ず実施することが原則であるが、ハイリスクグループに集中して効果的に健康管理を進めるという観点から、労働者の健康診断結果、それまでの面接指導の結果、労働者が従事する作業内容、時間外労働時間の状況等の要素も勘案した上で医師の判断によっては、毎月連続して行わなくともよい場合もあるものと考えられる。

○ 上記の措置等を的確に実施するため、また、産業医等が現場の労働負荷の状況に応じて適切な助言ができるよう、時間外労働時間等の情報が産業医、衛生管理者、衛生推進者、保健師等の産業保健スタッフに適切かつ迅速に提供される必要がある。

○ また、長期出張中の労働者、管理監督者、裁量労働者など一般の労働者とは労働時間管理が異なる者についても、過重労働による健康障害のリスクを考慮すると、原則として一般の労働者に準じた措置を実施する必要がある。

○ なお、長時間の時間外労働により疲労が蓄積している者に対しては、適切な休養を取らせることにより蓄積した疲労を解消させるようにすることも必要である。

ウ 事業場における労使の自主的な取組
○ 過重労働による健康障害防止対策としては、時間外労働の削減等により過重な負荷を排除することが基本であり、労働基準法令の遵守はもとより、時間外労働、交替制勤務、深夜勤務等の負荷要因の把握と改善に向けて労使が協力して自主的な取組を行うことが期待されるところである。特に、月100時間を超える恒常的な時間外労働はさせないようにすべきである。

○ 職場における負荷要因を把握し、これを改善していく方策を検討する場としては、労働者の健康障害を防止する観点から、労使、産業医、衛生管理者等で構成される衛生委員会等を活用すべきである。衛生委員会等で有効な議論が行われるためには、時間外労働時間等の情報が衛生委員会等に適切に提供されることが必要である。衛生委員会の設置義務のない小規模事業場においても、労使による職場改善の検討がなされることが適当である。

エ 労働者自身の取組の促進
○ 過重労働による健康障害防止のためには、事業者が適切な措置を講じることが不可欠であるが、労働者自身も健康的な生活習慣を身につけるなど自らの健康管理に対して自覚と自助努力が必要である。

○ これらの取組を促進するためには、労働者自らが実施可能な業務の管理、健康的な生活習慣の確立等に関して事業者が教育、情報提供等を行い、労働者自らが実践していくことが必要である。

(2)メンタルヘルス対策の在り方
ア 計画の策定
○ 職場の改善等を含め、メンタルヘルス対策は、中長期的視野に立って、継続的かつ計画的に行われることが重要である。しかしながら、平成14年労働者健康状況調査によれば、心の健康づくり計画の策定を行っている事業場はメンタルヘルス対策に取り組んでいるとする事業場のうちの7.6%に過ぎず、事業場における計画の策定を促進する必要がある。計画を策定する際には、事業場においては、衛生委員会等における審議の上、職場の現状とその問題点を明確にするとともに、その問題点を解決する具体的な方法等についての計画が策定されることが重要である。

イ 職場のストレスの把握と改善
○ 作業改善、作業方法、労働時間、仕事の量と質など職場のストレス要因を把握し、それを改善していくことで、労働者への心と身体の両面での負担を軽減することが可能である。これは、集団的アプローチとして、産業保健スタッフと職場の管理監督者等が連携し、ストレスに関する調査票等を用いた職場環境等の評価結果等を活用して職場単位で問題点を把握し、改善していくというものである。

○ 様々な情報から、健康管理部門がストレスの大きいと判断した職場については、健康管理部門から職場改善について当該職場の管理監督者、人事労務部門に問題提起していくことも必要である。

○ 職場のストレスの要因、影響は様々であり、一律の基準を定めることは適当でないことから、このような措置は、事業場での自主的な取組として進めることが適当である。

○ 他方、個人の対応として、産業保健スタッフが健康診断時等に個人のストレスの状況等を把握し、本人に対して情報を提供するとともに、事業者がその状況に対応した必要な配慮を行うことも重要と考えられる。ただし、その際には、事業者は、個人のストレス状況の把握のために得られた情報を、心の健康問題を抱える労働者に対する健康確保上の配慮を行うためにのみ利用し、不適切な利用によって労働者に不利益を生じないようにすること、プライバシー保護について特に注意することが必要である。なお、健康診断時等に質問票によってうつ状態などの個人のストレスの状況を把握し、スクリーニングしようとすることについては、質問票単独で行い評価する手法が確立していないこと、安易にスクリーニングを行うことで問題が生じるおそれがあることなどの指摘もあり、質問票等による形式的な点数評価にならないようにしなければならない。個人のストレスの状況を把握するとすれば、質問票等に加えて専門的知識を有する者による面談を実施するなど適切な評価ができる方法によること、診断や事後措置の内容の判断には医師が介在するなど問題を抱える者に対して事業場において事後措置を適切に実施できる体制が存在していること等を前提として実施することが重要である。

ウ 個人のストレス対処能力の向上
○ メンタルヘルスケアとして、セルフケア、すなわち個人がストレスに適切に対処できるようになることが重要である。このためには、労働者各人がメンタルヘルスに関する正しい知識を持つことが必要であり、事業者は労働者に対して教育、情報提供等を行うことにより、ストレスへの気付き、ストレスの予防・軽減・対処の方法、事業場内外の相談先等について知識を付与することが必要である。これは、心の健康問題に対する偏見を減らすことにも資するものである。

○ このような教育については、心身両面の健康保持増進対策の健康づくり(Total Health promotion Plan:THP)の健康教育の一環として行うことも考えられる。

○ また、この教育、情報提供等は、労働者のメンタルヘルスに対する意識を維持向上するために、繰り返し行われることが重要である。

エ メンタルヘルスの不調に早期に対応する方策
(ア)セルフチェックの実施
○ 労働者本人が自分のストレスの状況について気付くことは非常に重要であり、労働者のストレスの気付きのために、事業場のイントラネットを活用したストレスチェックなど随時セルフチェックができる機会の提供が有効である。

(イ)長時間の時間外労働を行った者等に対する医師等による面接指導
○ 精神障害による自殺の労災認定事案における労働時間を見ると、長時間であったケースが多く、また、企業における過重労働対策の効果に関する研究結果を見ると、長時間労働を行った者について医療機関に紹介したことがある産業医のうち約6割が労働者を抑うつ状態と診断して医療機関を紹介した経験があった。このことから、長時間の時間外労働を行ったことを一つの基準として対象者を選定し、メンタルヘルス面でのチェックを行う仕組みをつくることは効果的であると考えられる。(1)イにおいて、過重労働による健康障害防止のために長時間の時間外労働を行った者等を対象とした医師による面接指導を実施すべきとしているが、この際、メンタルヘルス面にも留意した面接指導を行うようにするべきである。具体的には、(1)イにおいて月100時間又は2ないし6か月間に月平均80時間を超える時間外労働を行った者に対して面接指導を行うほか、それ以外の場合でも労働者自身が健康に不安を感じたとき、周囲の者が異常を疑ったとき等について事業場で自主的な基準を設けて面接指導を行うべきこととしているが、これらの面接指導においてメンタルヘルス面についてもチェックを行うようにするべきである。特に、心の健康は外部からは評価しにくいものであること、周囲の者が異常を疑うようなときは相当程度深刻な状況となっている可能性があることを考えると、本人や周囲の者を端緒とした面接指導は重要であるといえる。

○ この場合も、事業者は、医師による面接指導の結果に基づき、必要に応じて適切な措置を講じることが求められる。

○ さらに、労働者本人又は周囲の者が労働者のメンタルヘルスの不調を疑った場合、事業場内での面接指導に繋げる仕組みを整備することに加えて、労働者本人が、その所属している事業場内の者にメンタルヘルスの不調を訴えることは抵抗があることも考えられることから、自ら外部の医師の面接指導を受け、その結果を事業者に提出することができる仕組みをつくることが必要である。また、この場合、事業者は、事業場内で面接指導を実施した場合と同様に産業医等の意見を聞いた上で、必要に応じて適切な措置を講じることが求められる。

(ウ)介入が可能となる仕組みづくり
○ 精神障害による自殺等の最悪の事態を避けるためには、労働者が深刻な状況に陥った場合における専門家による介入が可能となる仕組みづくりが必要である。この方法としては、周囲の者の気づきを端緒として上記(イ)の面接指導に繋げるようにすることのほか、上司が直接専門家に相談することがよいような場合も考えられる。

○ また、この介入の端緒としては、上司・同僚による気付きのほか家族による気付きも重要である。この介入のための仕組みとして、事業場側の相談窓口を明確にしておき、家族が気付いたとき、その窓口に相談して上記(イ)の面接指導に繋げられるようにすることが考えられる。このほか、プライバシーの保護等に配慮して、家族が所属事業場に知られることなく相談できるようにメンタルヘルスに関する外部の医療機関を含む専門機関と契約するといった方法も考えられる。また、家族が適切に対応できるように、家族に対するメンタルヘルスに関するアドバイス、情報提供等の支援を行うことも重要である。

○ しかしながら、上記(イ)の面接指導の契機とすることも含め、メンタルヘルスの不調の者への介入の端緒として周囲の者が関わることについては、周囲の者の不適当な判断により情報提供が行われることなどもあり得ることから、その仕組みづくりに当たっては、衛生委員会等において労働者や産業医等の意見を聞きながらプライバシー保護に十分に留意しつつ検討することがきわめて重要である。

(エ)相談体制の整備
○ 労働者がセルフケアを進める面から、労働者が自らの心の健康に不安を感じたとき、他者に知られることなく、自発的に気軽に相談でき、必要な情報や助言が得られることは、非常に重要である。このため、事業場において、随時、職場の内外の専門家に相談できる体制を整備することが重要である。

○ この際、事業場内での相談体制の整備のほか、公的機関を含めた事業場外の機関の利用も考慮する必要がある。

(オ)管理監督者に対する教育
○ 職場において日常的に労働者の指揮・管理を行うのは管理監督者であり、労働者のメンタルヘルスケアについて、管理監督者の役割は非常に重要である。管理監督者は、労働者の状況を日常的に把握し、個々の労働者の能力、適性等に合わせ、適切に業務の管理を進めるとともに、労働者の自主的な相談への対応、適切な情報の提供や必要に応じて事業場内外の相談窓口等に繋ぐなど適切な配慮を行うことが重要である。このため、管理監督者に教育、情報提供等によりメンタルヘルスについての知識を付与することが不可欠である。

オ メンタルヘルスの不調による休業者の職場復帰の支援
○ メンタルヘルスの不調により休業していた労働者の職場復帰について、当該労働者が円滑に職場に復帰できるようにするとともに、再発を防止するため、職場における支援、配慮等が必要である。

○ その際、治療に当たっている主治医との十分な連携が欠かせないが、事業者は産業医に、主治医と相談しつつ本人への就労上の配慮や職場内における様々な支援について具体的な指示や調整を行わせること、人事労務部門、受け入れる職場の管理監督者等と十分な連携を図らせることが必要である。産業医が選任されていない事業場にあっては、地域産業保健センターから専門家の紹介を受ける等により専門家からの指導援助を受けるべきである。

○ 職場復帰については、個々のケースに応じて、復帰する職場の選定、復帰時の就労形態、業務内容等の検討のほか、受け入れる職場の者への意識啓発、適切な情報提供等も含め様々な要素に留意して進める必要がある。職場復帰は企業にとってメンタルヘルス対策上大きな課題となっており、その具体的な進め方等について、今後さらに検討、研究を進めていく必要がある。

カ 健康づくり・快適職場づくりの活用
○ 事業場においては、これまでも心身両面の健康保持増進対策(THP)の取組や、「仕事による疲労やストレスを感じることの少ない、働きやすい職場づくり」を目指した快適職場づくりの取組が行なわれている。これらの取組をメンタルヘルス対策に活用することも重要である。