知識労働とメンタルヘルス
〜〜システムエンジニア(IT技術職)では能力不足や仕事の不適応感が精神健康度を下げている〜〜
メンタル・ヘルス研究所 高橋 俊晴
働く人々にとって、人間関係が一番のストレス
職業ストレスを考えるとき、その原因として真っ先にイメージされるのが一般的には“職場の人間関係”ではないだろうか。実際、厚生労働省の労働者健康状況調査(平成14年10月調べ)によれば、「強い不安、悩み、ストレスがある」と回答している労働者(61.5%)が挙げた具体的なストレスの内容は、「職場の人間関係の問題」とした人が一番多く、以下「仕事の量の問題」(32.3%)、「仕事の質の問題」(30.4%)、「会社の将来性の問題」(29.1%)と続く。また、全国の労災病院が実施している「勤労者 心の電話相談」に寄せられた最近1年間(平成15年4月から平成16年3月まで)の相談内容を見ると、職場の問題として人間関係の悩みが数多く寄せられていることがわかる。
仕事は、人間関係以上のストレス要因
これらの調査結果を鑑みると、働く人々が実際に職場の人間関係で苦慮していると感じていることは疑いようのない“主観的且つ心理的事実”であり、そのこと自体に異論を唱えるつもりは毛頭ない。しかし、職場の深刻なストレス状況を様々な角度から精査した上で実効性のある対策を講じなければならない状況において、働く人々が訴える“上司や同僚等との関係性の問題”というアンケートの応答率の高さだけに目を奪われてしまうと、対策の方向性を見誤ってしまうのではないかと思われるようなケース(下記)について考察してみる。
下図をご覧いただきたい。「あなた自身、仕事が最も辛いと感じるのはどういうときですか?」という質問に対するシステムエンジニアの回答別のストレス状況を、JMI健康調査(心の定期健康診断)という高精度のアセスメントツールで測定した結果を示す散布図である(アンケートの単純な集計結果ではない)。 精神健康の代表的な健康指標である「抑うつR」(縦軸)と「不安R」(横軸)で捉えると、“職場の人間関係がうまくいかないとき”と回答した人たちは、確かに産業人基準(50点)よりも強いストレス状況にあったのだが、その人たち以上に深刻な精神疲労(健康リスク)を抱えていたのが、“仕事をこなす能力に不足を感じるとき”並びに“仕事に適性がないと感じるとき”と回答した2グループだ。
職務特性に伴うストレス
このことは、IT業界という高度な専門知識やテクニカル・スキル等が要求される組織、職場においてストレス対策を検討する際、ヒューマン・リレーションの改善だけではなく、OJTやOff−JTといった育成機会を活かして職務を遂行するに足る情報リテラシーや問題解決能力、ナレッジをしっかりと身に付け、自己効力感(≒適性)や自尊心が持てるようになることの重要さにも目を向ける必要性があることを示唆している。
【重要さが増す知識生産性の向上には、メンタルヘルス増進が欠かせない】
21世紀に突入してからの日本を含めた世界は、今後ますますグローバルな規模で知識社会に変容していくことが、各種研究機関や有識者によって予測されている。であるならば、その社会を構築し支えていくために、革新的なアイディアや卓越した創造性、イマジネーションやナレッジマネジメント等の様々な“知”を要する知識労働が増えていくことになる。従って、その職務特性に伴うストレスの本質をしっかりと見極めた上で、対策を講じ、個と組織双方のメンタルヘルスを保持増進しながら知識生産性を向上させていくことが重要である。





