JMIこころの健康調査・相談室レポート
1999年7月 No.1
メンタル・ヘルス研究所
JMI健康調査のフォロー機能として開設されている「心の健康相談室」は、電話による相談と予約制の面接相談があります。
これらに寄せられた相談内容の統計をとり始めた89年度からの相談内容の変化をみますと、全体の基調としてはそれ程の大きな変化は見られませんが、「精神医学上の問題」は一貫して高率を示しています。一つにはメンタル・ヘルス研究所という名称が示す専門領域への認識性が考えられます。また、対象は産業人が中心ですので、「職場・仕事に関する相談」は2割前後を占め、常に一定以上の割合を保っていることが分かります。割合としては20%台前半が主で、94年、95年、そして昨年度が18%と数字的には減少していますが、、相談員の印象としては、「仕事に関する悩みは主訴としては多い」ということです。
「家庭に関する相談の割合」10年間で2倍
最近、注目される点は、「家族に関する問題」が徐々に増えつつあるということです。89年度では10%以下でしたが、95年度に20%台に乗せ、昨年度は再び20%台になりました。89年度と比較して実に2倍の割合です。
ここで「職場・仕事に関する問題」と「家庭に関する問題を合わせてみますと、94年以前は35%程度で推移し、95年以降は40%前後となっておりますが、割合としてはほぼ一定を保っていることが見てとれます。
これは、仕事一辺倒だった産業人が、景気の低迷や価値観の変化などで生活の場が「家庭」に移ってきた分、職場に関連した問題が減り、そして家庭の悩みが増えたという見方もできます。20年間のJMI調査を受けられた方のデータをもとに、いくつかの尺度で時代による産業人の心の変化を浮き彫りにした昨年8月に当研究所発表の「産業人の不安と、健康を生み出すシステムを求めて〜165万人の産業人のメンタルヘルス調査結果と提言」中で、「仕事への適応感」や「帰属意識」の直線的低落傾向を指摘していますが、この事実とも関係していることが考えられます。
「家族からの相談」が急増
さらに家庭に関する相談が増えている背景には、JMI調査を受けられたご本人からの相談だけでなく、ご家族が相談を受けられるケースが急激に増えていることも大きな要因になっているいるのではないか、とカウンセラーは指摘しています。とくに昼間の時間帯を多く担当するカウンセラーはそのように感じているようです。
また、昨年度をみますと、「性格上の問題」が一昨年度と比較して、10ポイントあまり増加し、一気に23.8%になったことも特徴としてあげられます。これに対して「自分の性格について問題を感じながら、周りの人には相談できずに、こうした相談室を利用する人が増えているのではないか」とカウンセラーは指摘しています。
「身体医学上についての相談」は、もともと少ないのですが、ここ数年はその割合がさらに減る傾向を示しています。この要因の一つとして考えられるのは、「心療内科」の開設です。ストレスによって生じる身体の病については、心療内科が出現して定着傾向を見せる中、これまで内科などでは分らなかった問題にも、ある程度対処できるうになってきたということの反映といえるかもしれません。また、身体は身体の専門機関、心の問題は心の専門機関にというように専門性を識別し、より具体的、専門的助言を求める傾向が強くなってきているということも考えられます。
また、電話相談に限ってみた場合、昨年度の傾向は、一番多いのはやはり精神医学上の問題で30.9%。2番目は「家庭に関する問題」(20・5%)。そして、「性格上の問題」が19.8%と僅差で続き、「職場・仕事に関する問題」は17.3%と4番目になっています。
「夫婦間の問題」に関する相談が多い
2番目に多い家族の問題に関して内容をみていきたいと思います。
まず、家族の問題として「夫婦間の問題」を訴える相談が増えているとカウンセラーは指摘しています。「恋愛結婚したが、こんなはずではなかった」とか、何十年も連れ添いながら、実は「相手がよく理解できない」というような相談が多いようです。それも単なる愚痴ではなく、離婚まで考えている深刻な訴えも多いそうです。
「子育て」に関する悩みも多いと指摘しています。中学生、高校生、大学生を子供にもつ親からのものが多く、どのように子供と向き合ったら良いのかという子供とのかかわり方について悩んでいるという相談が多いようです。これに対して、小学生以下の子供に関する相談については、良好な親子関係がまだ維持できているためか、相談としては比較的少ないというのも当研究所の「心の健康相談室」の特徴として挙げられるかもしれません。
この他「結婚を親に反対されているが、どうしたらよいか」や、結婚する相手の親族が抱えている問題に対して、「自分がどうそれに向き合っていったらいいか」、あるいはその逆のケースとして、「それを相手にどのように伝えたら理解してもらえるか」などの相談があります。
増えた女性の「職場の悩み」
割合としては少しずつ減少がみられる「職場・仕事に関する問題」も、相談は夜間や土曜日を中心にコンスタントに寄せられています。
最近では、職場の異動で馴染めないと訴える人が多いようです。こうした相談は、若い人から50歳を過ぎた人まで、世代にかかわらず寄せられているということです。ただ、内容としては、若い人は「自分のやりたい仕事ができない」という苛立ちの声が多く、40,50歳台の人たちでは「新しい仕事に馴染めない」という不安を訴えるものが多いそうです。
その中で、最近とくに「女性からの職場に関する相談が増えている」とあるカウンセラーは指摘しています。女性の社会進出が目覚しい中、雇用機会均等法などの施行もあって、これまで異動の少なかった女性もどんどん職場を移るようになって、ストレスが溜まりやすくなっていると見ています。これに関連することですが、セクシャルハラスメントに関する相談もいくつか見受けられるようになっています。
また、リストラなどによる人員削減で、リストラされる側だけでなく残った人に過度の負担がかかっている様子もうかがえます。極端なケースですが、仕事の量が増え、1年以上にわたって睡眠時間が毎日4時間以下という方までいるようです。あるいは、こうした状況によって疲れきった様子の夫をみた妻が、心配をして相談の電話をかけてくるケースも少なくないそうです。
周りの誰ともうまくいかない
昨年度、相談の割合が非常に増加した「性格上の問題」ですが、周辺との人間関係がうまくいかずに、自分がどのようにしたら周りに受け入れてもらえるか、逆にどのように相手を受け入れたらうまくいくのかということへの悩みから相談してくるケースが多いそうです。
たとえば、姑とうまくいかない、夫婦関係もしっくりいかず、地域との関係もだめということで、被害者意識を強く感じている方が相談してこられる例がよくあるそうです。電話でいろいろと話をかわすうちに、実は自分の性格(他人との接し方)に問題があって、誰ともうまくいかなかったということに気づくというケースが多いようです。
カウンセラーによりますと、「以前ならば、自分の周辺にそのような悩みを相談する相手がいて、わざわざこうした機関を利用しなくても良かったのだが、核家族化が進み、地域社会や職場でも人間関係がどんどん希薄化しており、相談する相手が見つからない。そこで相談室を利用せざるをえないのではないか」と指摘しています。
さらには、こうした人たちの特徴として、1カ所の相談機関だけでは気がすまず、何カ所にもアクセスしている例が多いということです。





