JMIこころの健康調査・相談室レポート
(財)社会経済生産性本部
メンタル・ヘルス研究所
JMI健康調査のフォローアップ機能である「心の健康相談室」(電話相談および予約制の面接相談)には、連日多くの相談が寄せられています。
今回は1999年度(1999年4月〜2000年3月)に寄せられた相談内容の集計結果についてご紹介したいと思います。
1999年度の相談内容傾向
全体の基調としては、これまでと同じ傾向が見られますが、「職場・仕事に関する問題」と「家庭に関する問題」が、昨年に引き続き増加傾向にあるのが気になります。一方、「性格上の問題」が昨年と比べ、大きく下がっていますが、これは、最近の相談内容が「精神医学上の問題」として判断されるケースが増えてきているという点と、前述の「職場・仕事に関する問題」「家庭に関する問題」に相談傾向がシフトしていることが理由です。
最も相談率が高いのは「精神医学上の問題」
上記のグラフを相談の内容分類毎に見ていきたいと思います。最も率の高い相談内容は、「精神医学上の問題」(31.3%)です。これは、「メンタルヘルス」相談室へのご相談内容としては当然な結果と言えます。
この数字を見る際のご参考として、厚生省の「入院−外科・性・傷病分類別受療率(人口10万対)」(『国民衛生の動向』厚生統計協会 1999年)をご紹介したいと思います。
この統計資料は、全国の病院における1年間の入院者と外来者の総数について、人口10万人に対する推計患者数として置き換えたものです。この資料のなかで、「精神医学上の問題」で病院にかかっている方々(外来および入院)の総数を合計してみると、10万人中383人(0.383%)の割合だということです。
一方、JMI調査受診者(99年度)の状況を見ると、実際に面接相談または電話相談をする方の割合は、全受診者の1.233%となっており、「精神医学上の問題」でご相談される方の割合は、全受診者の0.386%でした。
この結果と前述の厚生省の統計を比較すると、両者はほぼ同じ水準を示していることがわかると思います。これらの統計結果より、「精神医学上の問題」でお悩みの方々には、JMI調査をきっかけにして、かなりの精度でご相談を頂けているものと推察できます。
「家庭」と「仕事・職場」の問題が増えている
このように「精神医学上の問題」が相談の中心となっているわけですが、更に、それに収まらない様々な問題も、当相談室には数多く寄せられています。
「家庭に関する問題」は、昨年20.1%だったものが、今年は26.3%と大きく増えました。これは、他の相談内容と比較して、最も大きな増加です。傾向としては、JMI調査を受けたご本人からの相談に加え、そのご家族からの相談が増えてきています。例えば、「独身で同居している子供が、今だに親離れしていないように感じる」という親の声がある一方で、「今だに子供に干渉してくる親との関係」に悩む子供からの相談がある、と相談員は指摘しています。
家庭で小さな子供を抱えている女性からは、「社会から取り残された感じがする」「近所付き合いが難しい」という相談が届くことがあります。これは相談員によると、個人的な性格に起因する場合もあり、あまり一般化はできないまでも、小さな子供がいる最近の母親に特有の悩みともいえるかもしれない、とのことです。さらに、家庭を持ちながら働く女性からは「仕事と家庭の両立が大変」という相談もあります。
「職場・仕事に関する問題」については、昨年18.2%から今年20.8%へと増加しており、内容としては、現在の企業環境の厳しさを伺わせる相談が増えている、と相談員が一様に述べています。具体的には、「要員減少と配置転換が重なり仕事が以前と比べて厳しくなった」という声に代表されるものが、やはり多いようです。
最近の傾向として、相談してくる方の年代が以前は40代〜50代が主流だったものが、次第に30代に移りつつあります。また、働いている本人よりも、むしろ家族が心配して相談してくる、というケースが目立ち始めているようです。
ここで「家庭に関する問題」と「職場・仕事に関する問題」を合わせてみると、47.1%という結果になり、相談内容全体のなかで実にほぼ半分がこれらの問題で占められていることがわかります。ちなみに、98年度の両者の合計は38.3%で、97年度は40.7%となっており、99年度は10%程度増加していることが見てとれます。今後とも、その動向に注意が必要といえるでしょう。
〜トピック:人事異動――電話相談室の窓から〜
最近、メンタル・ヘルス研究所の電話相談室にかかってくる相談で目立つのは、人事異動に伴う様々な悩みを訴える件数の多さです。以前は仕事上の悩みでも、同僚との関係を苦にした相談の方が多かったのですが、最近は、人事異動を苦にするケースが多くなっているようです。そのようなご相談の方々は、馴れない仕事に加えてオーバーワークが続き、胃が痛い、下痢がするなどの心身症や、眠れないなどの鬱的な症状が出ています。
こうした窮地に立たされている方々も、異動の前は仕事をバリバリやるタイブだった方が多いようです。バリバリ仕事をする人の中には、自然に内面から出てくるようなエネルギーに支えられている人と、そうでない人とがいます。自然に内面から生まれるエネルギーによって支えられている方は、変化に対しても柔軟であり、大きなトラブルにはなりません。
ところが、内面的なエネルギーの支えがない人は、バリバリと仕事をすることはできたとしても、心に余裕がありません。職場で心から笑えるような瞬間がひとつもなく、のめり込むようにして仕事に没頭してしまいます。このような人々は、外から見ると何かに取りつかれたように見えてしまいます。誰でも一度位は、ある時期そんな風に仕事に没頭した経験をお持ちでしょう。
しかし、新入社員の頃からずっとその状態だったという方は、それ以外の状態を経験したことがないわけです。したがって、自分の過度の緊張状態に気づくこともできません。そして、ある時異動の命令を受け、いきなり調子を狂わせてしまうのです。
こうした人事異動に伴う相談のケースは、3年位前から増え始め、昨年度にはかなり急激な上昇が見られました。この傾向は、今まで安定していた企業が、大きな機構改革や人事制度の見直し等に取り組み始めた時期と符合しているようだ、と相談員は指摘しています。
安定した環境の中で、きちんとフォーマットの決まった仕事をやっていれば、達成するべき課題も明確であり、その環境では、受身的に与えられた課題を達成していれば評価されてきました。つまり、業務をこなしていれば評価され続けることになります。しかし、ここにきて、急激な変化によって従来の活躍の舞台が根こそぎ奪われてしまう、という可能性が生まれてきました。このような状況下で、達成するべき課題を自分で考えなくてはならなくなった時、はじめてメンタルヘルスの不調を自覚し、その体験を通じて、今までの課題達成が受身的な性質のものであったことがわかりはじめているのではないか、と先の相談員は分析しています。
カウンセリングの目的は、相談者が本来の自分を取り戻し、自然に内面から生まれるエネルギーによって支えられるようにサポートすることです。相談者がカウンセリング等を利用しながらこの体験を得られれば、それは人生に訪れる最良の転機にもなるはずです。その方々が、職場生活を通じてどうやってその転機を得ていくかという問題は、現代の企業に課せられた大きなテーマとしてクローズ・アップされるべき問題といえるのではないでしょうか。





